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熊田 高之
化学の要点シリーズ,20, P. 71, 2017/06
量子固体として知られる固体水素は、内部場が非常に小さいだけでなく、欠陥やひずみによる内部場の不均一を量子的ゼロ点運動により自己修復(セルフアニーリング)する性質を持つ。その中でも固体パラ水素は、オルト・パラ水素分子のうち核磁気を持たず凝固点以下で電気四重極も持たないパラ水素のみを精製したものである。内部磁場が存在せず内部電場も小さく等方的かつ均一であることから、固体パラ水素は高分解能・高感度赤外吸収・ESR分光のマトリックスとして注目されている。ESR法を用いて固体パラ水素中にわずか10ppm生成したHラジカルの観測に初めて成功した。現在、Hは水素イオンが主要な役割を演じる宇宙化学においても注目を集めている。また、内部場が小さいことから固体パラ水素中における電子スピン緩和は非常に遅く、NMRに負けない多パルススピン制御に向けた研究展開も期待される。このように、固体パラ水素とESRの組み合わせは、ラジカル分光に限らず多くの研究分野を巻き込んだ新たな展開を期待させる。
熊田 高之; Shevtsov, V.*; 荒殿 保幸; 宮崎 哲郎
Journal of Chemical Physics, 113(4), p.1605 - 1608, 2000/07
被引用回数:4 パーセンタイル:12.24(Chemistry, Physical)固相における放射線分解過程は、特有の拡散、緩和機構により、気相とは異なる様相を示す。われわれはX線照射した固体水素中に生成する水素原子収量の圧力依存性を見ることで、放射線分解過程が固相中でどのように進行するかを調べた。その結果、収量は圧力とともに減少し、22MPaにおいては0MPaに比べて約半分になっていることを見いだした。以上の結果は圧力によりかご効果が強くなったため、放射線分解過程における水素原子解離反応が起きにくくなったためであると考えられる。
Shevtsov, V.*; 熊田 高之; 荒殿 保幸; 宮崎 哲郎
Chemical Physics Letters, 319(5-6), p.535 - 541, 2000/03
被引用回数:14 パーセンタイル:40.89(Chemistry, Physical)5K以上の固体水素中における粒子のトンネル拡散は固体中に熱的に生成する空孔によって引き起こされ、拡散速度は空孔の数により決定されると言われてきた。しかしながら空孔の存在を示す直接的な証拠はなかった。そこでわれわれは空孔数が圧力により定量的に制御できる点に着目し、X線照射により固体水素中に生成した水素原子の拡散に伴う再結合速度の圧力依存性をESRを用いて観測することで、再結合速度から決定される水素原子の拡散速度と空孔との関係を調べた。その結果、圧力の上昇に伴い再結合速度は減少し、22MPa下において0MPa下の約1/1000になることを見いだした。また、再結合速度の圧力依存性と空孔数のそれとが定量的に一致することから、固体水素中における水素原子の拡散が空孔を媒介して引き起こされていることを明らかにした。
熊田 高之; 野田 知克*; 熊谷 純*; 荒殿 保幸; 宮崎 哲郎
Journal of Chemical Physics, 111(24), p.10974 - 10978, 1999/12
被引用回数:10 パーセンタイル:31.1(Chemistry, Physical)固体HD及びD中におけるH及びD原子の捕捉サイトを電子スピンエコー法を用いて調べた。解析の結果、すべてのH及びD原子は置換型サイトに捕捉されること、またH原子周囲のHD及びD分子は0.15程度外側に押し出されていることを見いだした。置換型サイトに捕捉されるのは水素原子-分子間の相互作用と水素分子間の相互作用がほぼ等しく、最初に挿入型サイトに捕捉された水素原子もゼロ点運動によって容易に平衡距離に緩和するためと考えられる。H原子の周囲のHD及びD分子が押し出されるのはそのゼロ点運動の振幅がH原子の場合特に大きいためであると考えられる。これらの捕捉サイトに関する実験結果は、固体水素中におけるトンネル反応D+DH→D+Hにおいて実験的に観察した気相論で説明できない反応速度定数の温度依存性が、固体HD中におけるH原子周囲ひずみによって引き起こされている可能性によることを示唆している。
黒崎 譲*; 高柳 敏幸
Journal of Chemical Physics, 110(22), p.10830 - 10842, 1999/06
被引用回数:20 パーセンタイル:53.61(Chemistry, Physical)反応CH+HCH+H(I)及びCD+HCDH+H(II)の反応速度における同位体効果について、変分的遷移状態理論及び準古典的多次元トンネリング法を用いて理論的に考察した。まず、反応IとIIのポテンシャル面を量子化学的手法により計算した。次に、得られたポテンシャル面を用いて、多次元トンネリングを準古典的に考察した変分的遷移状態理論により反応速度定数を求めた。実験的には、5Kの固体パラ水素中で、反応IIの方が反応Iより反応速度が速いことが報告されている。ここでの計算の結果、理論的にも反応IIの方が反応Iよりも5Kで反応速度が速いことが予測され、実験結果を定性的に説明することができた。
宮崎 哲郎*; 荒殿 保幸; 市川 恒樹*; 塩谷 優*
JAERI-Conf 98-014, 99 Pages, 1998/10
1998年8月3,4日に開催した、先端基礎研究センター主催の第4回低温化学セミナーのプロシーディングスである。トンネル反応の理論を中心に11件の講演がまとめられている。
宮崎 哲郎*; 荒殿 保幸; 市川 恒樹*; 塩谷 優*
JAERI-Conf 98-002, 101 Pages, 1998/02
1997年10月13,14日に開催した第3回低温化学セミナーのプロシーディングスである。今回の主題は「トンネル反応と量子媒体」であり、物理、化学分野からの14件の講演がまとめられている。
熊田 高之; 北川 尚紀*; 野田 知克*; 熊谷 純*; 荒殿 保幸; 宮崎 哲郎*
Chemical Physics Letters, 288(5-6), p.755 - 759, 1998/00
被引用回数:27 パーセンタイル:64.55(Chemistry, Physical)固体水素中におけるH原子の捕捉の研究は、固体水素の量子固体としての物性を研究する上のみならず、固相中における原子引き抜きトンネル反応:H+HH+Hを理解する上でも大変興味深い。今回、我々は新たにENDOR(電子、核二重共鳴)法を用い、線照射した4.2K固体水素中に生成したH原子の捕捉状態を調べた。ENDORスペクトルの解析結果から、H原子は固体水素中の置換型サイトのみに存在すること、また、その最近接のオルソ水素分子はパラ水素に変換されることが確かめられた。前者はH-H間の分子間力がH-H間のものと同等であること、後者は近接のオルソ水素がH原子の不対電子により禁制がやぶられパラ水素に変換されたことを示したものである。ENDOR法を用いることでこのように固体水素中の微視的情報が直接的に得られた。
熊田 高之; 荒殿 保幸; 宮崎 哲郎*
Journal of Low Temperature Physics, 111(3-4), p.509 - 514, 1998/00
この論文はHアニオンの今までの成果をまとめたオートレビューである。一般の固定水素と比べ、パラ水素をアイソレーションマトリックスとして用いると、捕捉されたラジカルのESRスペクトルの分解能が大幅に改善される。われわれはこのパラ水素マトリックス中を用いHアニオンの観測に初めて成功した。またH分子とは逆に、このHは極低温でパラオルソ変換が起きていることが確認された。この逆方向の変換はH分子とHアニオン中のプロトンの交換に対する波動関数の対称性から説明される。
熊田 高之; 稲垣 裕久*; 北川 尚紀*; 駒口 健治*; 荒殿 保幸; 宮崎 哲郎*
Journal of Physical Chemistry B, 101(7), p.1198 - 1201, 1997/00
被引用回数:12 パーセンタイル:40.52(Chemistry, Physical)固体パラ水素に線照射することによって生成した、Hアニオンの減衰に、核スピン状態による違いがみられた。これは減衰過程においてパラHからオルソHへ核スピン状態の変換が同時に起きていることを示唆する。またこの変換は、等核2分子中での波動関数の反対称性の要請によって説明できることがわかった。他に、Hアニオンの減衰機構、また固体水素中での拡散についても同時に論じる。
熊田 高之; 稲垣 裕久*; 長澤 孝郎*; 荒殿 保幸; 宮崎 哲郎*
Chemical Physics Letters, 251(3-4), p.219 - 222, 1996/03
被引用回数:22 パーセンタイル:59.87(Chemistry, Physical)ESRを用いてラジカルを測定するにあたり、核スピンの存在しないパラ水素を媒質として用いると、高分解能のスペクトルを得ることができる。今回極低温固体パラ水素中で初めてHアニオンの観測に成功した。またパラ水素から生成したHアニオンのパラ-オルソ比が1:3であることから、アニオン生成過程において、本来禁制であるはずのオルソ-パラ遷移がおきていることもあわせて確認された。
熊田 高之; 荒殿 保幸; 宮崎 哲郎*
Chemical Physics, 212(1), p.177 - 182, 1996/00
被引用回数:4 パーセンタイル:17.31(Chemistry, Physical)線照射後の4.2K固体D(H-1mol%)中のD及びHラジカル量の時間依存性を、ESRを用いて190分にわたり測定した。この実験結果に反応速度式から求まる理論値をフィッティングしたところ、トンネル引き抜き反応:H+DH+HDに反応速度が100倍以上異なる、2種類の反応の存在を確認した。これは今までの気相モデルの理論計算では説明の及ばない新しい実験結果であり、固相反応特有の現象として説明した。
長谷川 浩一; 河西 敏; 鈴木 貞明; 小田 泰嗣*
JAERI-M 92-170, 18 Pages, 1992/11
核融合の研究では、プラズマの内部領域に粒子を効率よく補給する研究が進められていて、固体水素ペレットを高速でプラズマに入射する方法が注目されるようになってきた。ペレットの入射技術の開発と共に、射出されたペレットの速度、質量、形状、などを正確に測定する技術の開発も重要な課題である。本報告書では、高速で繰り返し射出されたペレットの形状を観測するのに優れている影絵(シャドーグラフ)の撮影法とその観測結果についてまとめた。高輝度パルス光源とビデオ・カメラを組み合わせた撮影方法により1~5Hz間隔で射出されるペレットを、100%に近い確率で撮影することができた。
河西 敏; 長谷川 浩一; 小田 泰嗣*; 小野塚 正紀*; 鈴木 貞明; 三浦 幸俊; 辻村 誠一*
JAERI-M 92-143, 40 Pages, 1992/09
核融合実験装置のプラズマへの粒子入射法の一つとして研究開発が進められている固体水素(重水素)ペレット入射技術に関して、繰り返してペレットを射出できるニューマチック式ペレット入射装置の開発を行った。今までに冷却器の温度、押出し用ピストンの速度、加速ガス圧力等を調整、制御することにより、2~3.3Hzで速度と質量のそろったペレットを繰り返し射出することができた。また、最大1.7km/sの速度を得ることができた。
長谷川 浩一; 河西 敏; 三浦 幸俊; 鈴木 貞明; 小田 泰嗣*; 小野塚 正紀*; 下村 知義*
NIFS-MEMO-3, p.99 - 102, 1991/07
プラズマへの粒子補給を高速で数多くの固体水素ペレットで行い、プラズマ密度の分布をより精密に制御して、閉じ込め特性の向上を図るため、高速・多発ペレット入射装置の開発を進めている。この装置は、昭和63年度に製作した多発化開発用試験装置と組み合わせて、ペレットを加速する加速ガスを高温・高圧にしてペレットの高速化を図る装置である。固体水素の生成は、液体ヘリウムを冷媒とした3台の冷却器で水素ガスを冷却して行う。生成した固体水素を冷却器に内蔵したピストンにより、ノズルから押し出し、それをパンチ式切断器でペレットに切断して、2個の射出弁で交互に100ms間隔で射出する。射出したペレットの速度・質量・飛行状態などを測定して、装置の性能を確認している。研究会では、この開発試験の結果等について報告する。
藤谷 善照*; 宮崎 哲郎*; 笛木 賢二*; 正木 信行; 荒殿 保幸; 佐伯 正克; 立川 圓造
Journal of Physical Chemistry, 95(4), p.1651 - 1654, 1991/00
被引用回数:5 パーセンタイル:25.43(Chemistry, Physical)JRRリドタンクにおいて中性子照射により生成した反跳トリチウム原子の反応を4.2K固体H-D中で研究した。4.2KJ-D中で反跳トリチウム原子の反応によるHTの収率を4.2KH-Dの線分解で生成されるH原子の収率と比較し、HTの生成は原子炉照射時の固体水素の線分解によるH原子と熱化したT原子との再結合によるものではなく、反跳T原子によるHおよびDからの引き抜き反応によると結論した。量子力学的トンネルにより熱化T原子の水素原子引き抜き反応の速度定数には4.2Kにおいて大きな同位体効果が予想される。一方、ホットT原子反応では同位体効果は現れない。固体水素中でのホットT原子反応による生成物の収率をホット原子反応と熱化原子反応に対する同位体効果の差から計算し、4.2K固体水素中では反跳トリチウムの90%以上が熱化する以前にホット原子反応により水素分子と反応すると結論した。
河西 敏; 三浦 幸俊; 長谷川 浩一; 仙石 盛夫; 小川 宏明; 上杉 喜彦; 川島 寿人; 玉井 広史; 長谷川 満*; 星野 克道; et al.
JAERI-M 86-109, 16 Pages, 1986/07
JFT-2M用のペレット入射装置を製作し、その基本性能を調べた。最大速度約900m/s、速度の再現性80~90%。実測した速度は理想気体モデルに基づいて計算した速度の8095%である。中性粒子入射あるいはイオンサイクロトロン周波数帯波により加熱したプラズマへの重水素ペレットの入射により、エネルギ-閉じ込め時間の増加を得た。電子温度とポロイダルベータ値は3040msの間に元のレベルまで回復する。ペレット入射後において、金属及び軽元素不純物は増加しない。
河西 敏; 長谷川 浩一; 三浦 幸俊; 石堀 郁夫
JAERI-M 86-035, 24 Pages, 1986/03
JFT-2Mにおいて粒子補給とプラズマ特性の改善を目的として1ペレット射出装置を製作し、性能試験を行った。最大スピ-ドは約900m/s(Hペレット、14kg/cmHe加速)、入射実験におけるスピ-ドは714~833m/sである。スピ-ドの再現性は80~90%であり、射出スピ-ドは理想気体モデルに基づく計算値の80~95%である。補給できる粒子数は設計値の71~90%(1.65mm1.65mmLペレット)及び46~56%(1mm1mmLペレット)である。飛行軌道の拡がりはプラズマ中心の位置で約26mmである。